スピン・エレクトロニクスグループ
マグノニクス

ナノ構造磁性材料や磁気現象などのスピン工学分野を中核にして、光や高周波電磁界、超音波や熱、電子伝導などとの協調現象を巧みに利用した基礎から応用にわたる研究を行っています。

磁気ホログラフィックメモリ

はじめに

近年、情報通信技術は飛躍的に発展し、スーパーハイビジョンをはじめ、 IoTなど膨大なデータを扱う技術が普及し始めており、 これらの膨大な情報をいかに保存し活用するかが重要となっています。 そのため既存の記録媒体に対する大容量化も活発に進められている一方で、 新しい技術による記録媒体の高性能化を図る研究も進められています。

ホログラムメモリとは

信号光と参照光と呼ばれる2つの光を重ね合わせると、光の干渉と呼ばれる現象が生じます。 このときに生じる干渉縞を光と相互作用するメディアに記録したものがホログラムで、 ホログラムを記録する技術をホログラフィーといいます。このホログラム(干渉縞)に 記録したときと同じ参照光を当てると、光が回折して信号光が再生されます。これを利用して、 信号(データ)を記録・再生するのがホログラムメモリです。ホログラムの記録方式には大きく分けて、 信号光と参照光を異なる角度で照射する二光束干渉方式と、信号光と参照光を同軸に配置して レンズで集光しながら干渉させるコリニア干渉方式の2つの方式があります。

二光束干渉方式(左)とコリニア干渉方式の模式図(右)です。左が二光束干渉方式を表し、
右がコリニア干渉方式を表します。現在、NHKなどでは、二光束干渉方式を用いたホログラムメモリの
開発が進められています。一方、コリニア干渉方式はHVDとして国際標準が取得されており、
私たちは、外乱に強く、従来のDVDなどに用いられているのと同様の位置決機構などを利用できる
メリットがある、こちらの方式での実用化をめざしています。

ホログラムでは、参照光を当てる角度などの条件が少しでもずれると元の像が再生されません。 これを利用すると、同じ場所にいくつものデータを記録することができます(多重記録)。 これによりDVDなどと同じ大きさのディスクに1TB以上の大容量のデータが記録できます。 またQRコードのような2次元データを一度に記録・再生できるため、データを1つずつ記録・読み出しする ハードディスクやBlu-Rayなどと比べて、大容量のデータも高速に記録・再生することができます。

先行研究

スピン・エレクトロニクスグループでは、これまでホログラムメモリの研究を行ってきており、 2005年にはコリニア記録再生方式を用いて、ホログラムメモリドライブのプロトタイプを作製する等、 実用に値する成果を得てきました。このときには記録材料に感光材料の一種であるフォトポリマを用いましたが、 ライトワンスで書き換えができないものでした。そこで書き換え可能なホログラム記録材料として、 磁性材料を用いた磁気ホログラムがあります。私たちのグループでは磁気ホログラムの記録媒体として 長期安定性に優れた磁性酸化物を用いています。この透光性のある酸化物である磁性ガーネット膜に、 世界で初めて磁気ホログラムの書き込み再生ができることを実験で示し[1]、 書き換え可能な磁気ホログラムメモリの実現を目指して研究を行っています。

磁気ホログラムメモリ

初期の磁気ホログラムの記録媒体としてよく用いられてきたのは、TbFeCo系のアモルファス希土類遷移金属合金薄膜でしたが、 スピン・エレクトロニクスグループでは体積的にホログラムが記録できる、透光性のある磁性ガーネット系材料(Bi:RIG)を 記録材料として用いています。このBi:RIG膜は数10 nm程度の粒径を持つ多結晶膜で、 この一つ一つの結晶粒が磁気的な情報を持ち干渉縞を作るので、磁気ホログラムの記録に必要なサブミクロンの大きさの干渉縞も形成できます。

我々がホログラムの記録に用いている磁性酸化膜の写真。膜の向こう側に置かれた字が透けて見えることから、
透過性が高いことが分かる。膜の直径は1インチで、均質性が高いことが、色むらなどがないことからも分かる。

上述のように、磁気ホログラムによる記録・再生には成功していましたが、当初はノイズが多く、像が暗いなどの課題がありました。 像の暗さについては、人工磁気格子の一種である磁性フォトニック結晶構造や多層膜構造を記録メディアに導入することで、 明るい再生像が得られることを、数値シミュレーションおよび実験で示してきました[2]。また、記録条件を工夫することで、 48x48 pixelのデータをエラー無く記録・再生することもできるようになり、磁気ホログラムがメモリとしてのポテンシャルを 有することを示すことができました。3種類の符号化方式を使って、記録と再生を行った結果は、下図のようになりました。 1を0,0を1と読み間違えるようなエラーが全く無くなり,磁気ホログラムを使ったメディア形成とその書き込み方式を、 本研究室が世界で初めて実証したと考えています。

記像した時の、記録パターンと、磁気ホログラムからの再生像。
記録条件を工夫することで、 磁気ホログラムとして、世界で初めて、エラーが全くない明瞭な再生像が得られた。

今後は、高記録密度化のための記録方式の改善やそれに適した記録メディアの開発など、 磁気ホログラムメモリ実現のために研究を進めていきます。また、こうした技術開発のために必要な、 実際に記録された磁気ホログラムを観察する手法についても検討を進めています。

参考文献

[1] Nakamura, Y.; Takagi, H.; Lim, P. B.; Inoue, M. Magnetic volumetric hologram memory with magnetic garnet Opt. Express 2014, 22, 16439–16444.

[2] Isogai, R.; Suzuki, S.; Nakamura, K.; Nakamura, Y.; Takagi, H.; Goto, T.; Lim, P. B.; Inoue, M. Collinear volumetric magnetic holography with magnetophotonic microcavities Opt. Express 2015, 23, 13153–13158.